この言語センスと浮かび上がる独特の世界観は、とても魅力的なものだ。
中村 文則(小説家・第133回芥川賞受賞作家)

NON'SHEEPが発表した最新作は、『遺書』というタイトルである。
これから音楽シーンに切り込んでいこうとするロックバンド。その曲のタイトルとしては、なかなか変わっている。
僕は小説家なので、つい小説家と比べてしまうのだけど、ふと太宰治の名前が浮かんだ。彼は27歳で刊行したデビュー作の短編集に、『晩年』とつけた。死や哀しみを意識し続けた太宰治は、後に日本文学を代表する作家の一人になる。太宰治の小説は全体的に暗いのだけど、現在でも数多くの愛読者をもつ。気分が沈んだ時など、彼の作品は寄り添ってくれる。
人間は誰しも、常に明るく生きていくことはできない。24時間いつも明るい人など、なかなかいない。学校では明るくしているけど、家で一人でいるとたまに暗い気分になる。そんな人は多いだろう。
そういう時、NON'SHEEPの音楽は、より心地良く響いてくるかもしれない。まるで気持ちが沈んだ時に、そっと側にいてくれる物静かな友人みたいに。
ヴォーカルの佐藤氏が書く詩には、能天気な明るさはない。時にはプレッシャーに感じる、無責任な励ましもない。彼の言葉は、寄り添うのである。『遺書』で見せた繊細で柔らかな言葉の使い方は、レベルの高い才能を感じさせる。
抑制のきいた静かな言葉を土台に置き、所々に強い言葉を出現させながらも、全体を柔らかく包む。この言語センスと浮かび上がる独特の世界観は、とても魅力的なものだ。そしてミュージシャンである彼の呟きは印象的なメロディーに乗り、見事なバンドサウンドになっていく。特にサビによる音と言葉の重なりは美しい。切実で、繊細で、鮮やかだ。
『このまますぐ 呼吸を止め 意味があるように死んだって 静かだった この世界で 見出すものは何だっけ?』
彼の詩は、すぐに結論を出すことはしない。絶望や悲しみを意識しながらも、躊躇し、考え続けている。こういうことを一曲の歌詞で表現するのは難しいが、彼は鮮やかに表現しきった。死を思うことは、同時に生を思うことである。『遺書』という言葉から、彼らは今確かに『始まった』のだ。
音楽は時代と共に歩み、本物のロックバンドは常に、その時代の空気を自らのメロディーや言葉によって体現してきた。デビューしていくミュージシャンは多くいるけれど、彼らは今の時代に出るべくして現れた印象がある。彼らの切実で鮮やかな音楽は、この空虚な世界に貴重な灯りをともすだろう。
中村文則
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1977年、愛知県生れ。福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。 《主な著作》 |
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